実家を相続したものの、遠方に住んでいたり管理が難しかったりして、空き家のまま放置されてはいませんか。いざ売却を考えたとき、最も気になるのが「売却後にどれだけの税金が手元から消えてしまうのか」という不安でしょう。
特に空き家の売却には、条件次第で税金を大幅に減らせる強力な特例が存在しますが、2024年からルールが一部変更されたことを知らないと、数百万単位で損をするケースも珍しくありません。
この記事では、国税庁の最新指針に基づき、空き家売却に関わる税金の知識から、最大3,000万円の控除を受けるための具体的な手順まで、徹底的に解説します。
空き家売却にかかる4つの税金
不動産を売却した際、売却代金のすべてが手元に残るわけではありません。利益が出た場合に課される税金だけでなく、契約や名義変更に関わる諸税も発生します。まずは、空き家売却時に必ず考慮すべき4種類の税金について整理しましょう。
不動産売却における税金の全体像は以下の通りです。
| 税金の種類 | 課税の対象 | 支払うタイミング |
|---|---|---|
| 譲渡所得税 | 売却による利益(譲渡所得) | 売却した翌年の確定申告時 |
| 住民税 | 売却による利益(譲渡所得) | 売却した翌年の6月以降 |
| 印紙税 | 売買契約書の作成 | 売買契約締結時 |
| 登録免許税 | 抵当権抹消や名義変更 | 決済・引き渡し時 |
上記の中でも、最も金額が大きくなりやすいのが譲渡所得税と住民税です。これらは、家を売った価格から「買った時の価格(取得費)」と「売るためにかかった費用(譲渡費用)」を差し引いた利益(譲渡所得)に対して、所有期間に応じた税率が課されます。
復興特別所得税についても忘れてはいけません。これは、東日本大震災の復興財源を確保するためのもので、2037年まで継続されます。所得税額に対して2.1%が加算される仕組みです。また、売買契約書に貼る収入印紙代である印紙税や、名義変更の手続きにかかる登録免許税は、利益の有無にかかわらず発生するコストとして予算に組み込んでおく必要があります。
実質的な納税額をゼロにする3,000万円特別控除の破壊力
空き家の売却において、納税額を劇的に減らす、あるいはゼロにできる最大の武器が「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」、通称「空き家特例」です。この制度を利用すれば、売却益から最大3,000万円が控除されます。
もし特例を使わずに売却した場合、どれほどの税金がかかるのか実例を見てみましょう。例えば、相続した実家を3,000万円で売却し、取得費(不明なため5%)と譲渡費用(仲介手数料など)を差し引いた利益が2,700万円だった場合、所有期間5年超の長期譲渡所得の税率(20.315%)を適用すると、約548万円もの税金が発生します。
しかし、この特例が適用されれば、利益2,700万円が控除額3,000万円の範囲内に収まるため、譲渡所得税・住民税ともにゼロとなります。数百万円という大金が手元に残るかどうかの瀬戸際となるため、制度の適用延長期間である2027年12月31日までに売却を完了させるためのスケジュール管理が極めて重要です。
2024年1月からの大改正!空き家特例の緩和と制限を徹底解剖
多くの相続人にとって朗報となったのが、2024年の税制改正です。これまでよりも使いやすくなった点がある一方、注意が必要な制約も追加されました。
改正による主な変更点は以下の3つです(出典:国税庁「令和6年度税制改正の概要」)。
- 買主による解体・耐震改修が容認された
従来は、売却前に「売主」が耐震改修を行うか、更地にする必要がありました。これが原因で資金繰りに困るケースが多かったのですが、2024年1月1日以降の譲渡からは、買主が売却後に解体や工事を行っても特例の対象となりました(譲渡した日の属する年の翌年2月15日までの工事完了が必要)。 - 相続人が3人以上の場合は控除額が減額
これまで相続人の人数にかかわらず一人3,000万円の控除が受けられましたが、2024年以降は相続人が3人以上の場合、一人あたりの控除上限が2,000万円に引き下げられました。兄弟が多い家庭では計算に注意しましょう。 - 老人ホーム入所要件の維持
被相続人が亡くなる直前に老人ホームに入所していた場合でも、一定の要件(家財道具の保管や貸付をしていない等)を満たせば「居住していた」とみなされる緩和措置は引き続き有効です。
改正によって売却のハードルは下がりましたが、相続人数による控除額の変化など、複雑な計算が必要になる場面も増えています。特に「売った後に買主に解体してもらう」プランを検討している方は、契約内容に工事の完了期限を明文化しておくなどのリスクヘッジが欠かせません。
ひとつでも漏れると適用不可!3,000万円控除の厳しすぎる5つの壁
この強力な特例を受けられるのは、国が定めた厳しい条件をすべてクリアした「正真正銘の空き家」だけです。以下の5つのポイントを一つでも満たしていない場合、適用は受けられません。
- 昭和56年5月31日以前に建てられた「旧耐震基準」の家であること
これが最大の壁です。高度経済成長期に建てられた古い家を減らすことが目的の制度であるため、1981年6月1日以降に建てられた比較的新しい家は対象外となります。 - 親が亡くなる直前まで「一人暮らし」をしていたこと
親と同居していた子供がそのまま住み続けていた場合や、亡くなる前に第三者に貸し出していた(賃貸)場合は適用されません。例外として、亡くなる直前に老人ホームに入所していた場合は認められるケースがあります。 - 相続日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
相続発生から時間が経過しすぎると権利を失います。例えば2024年中に相続した場合は、2027年末が期限です。 - 売却価格が「1億円以下」であること
土地と建物の合計額です。複数の相続人で分割して売る場合も、全体で1億円以下である必要があります。 - マンションは対象外(一戸建てのみ)
残念ながら区分所有のマンションはこの特例を使えません。登記事項証明書で、区分所有建物となっていないか確認しましょう。
多くの人が勘違いしやすいのが「相続後に自分で少し住んだ」ケースです。一度でも相続人が住んでしまうと、それは「空き家」ではなく「自宅」の売却扱いとなります(自宅用の3,000万円控除は別にありますが、要件が異なります)。また、建物の評価年数を調べるために、まずは登記簿謄本や建築確認通知書を確認することから始めましょう。
空き家売却の節税テクニックと注意点
3,000万円控除に注目が集まりがちですが、他にも知っておくべき節税の知恵があります。特に親が昔買った土地で「購入価格がわからない」というケースは非常に多いため、以下の対策を覚えておきましょう。
- 概算取得費5%ルールの活用
親がいくらで買ったか証明できない場合、売却価格の5%を取得費として計算します。これは節税というより損をしないための最低限の手法ですが、もし当時の売買契約書等が見つかればもっと多くの経費を計上できる可能性があるため、粘り強く家の中を探しましょう。 - 低未利用土地等の100万円控除
地方の二線級立地にある空き家で、土地代が500万円(都市計画区域内で一定条件を満たせば800万円)以下の場合は、別の特例として100万円を控除できる制度があります。 - 「取得費加算の特例」との選択
相続税を支払った場合、その一部を取得費に加算して所得税を減らせる「取得費加算の特例」があります。ただし、空き家3,000万円控除との併用はできません。どちらの方が有利か、税理士によるシミュレーションが必要です。
特に、古い領収書や当時のパンフレット一つで取得費が数百万円変わることもあります。売却を決めたら、まずは実家の金庫やタンスの奥にある書類を整理することをお勧めします。
失敗しない確定申告!スムーズに適用を受けるための必要書類と流れ
特例を受けるためには、売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行う必要があります。何もしなければ、自動的に適用されることはありません。
申告をスムーズに進めるための最重要書類は以下の通りです。
- 被相続人居住用家屋等確認書
これが最も重要です。空き家が所在する「市区町村」に申請して発行してもらいます。発行までに数週間かかることもあるため、早めの行動が必要です。 - 譲渡時の売買契約書の写し
- 登記事項証明書
建築年数や所有権の推移を確認するために必要です。 - 耐震基準適合証明書または除却工事証明書
家を残して売る場合は耐震性能を、壊して売る場合は取り壊した事実を証明します。
注意すべきは、2024年から可能になった「買主が工事する」ケースです。この場合、買主が譲渡した年の翌年2月15日までに工事を完了させたことを証明する書類を、売主が確定申告時に提出しなければなりません。買主との連携が不可欠であり、契約時に「協力義務」を明記しておくことが、確実な節税への近道となります。
空き家を放置して資産価値を下げる前に知っておくべきリスク
「税金の仕組みはわかったけれど、まだ売る決心がつかない」という方も多いでしょう。しかし、放置し続けることによる金銭的リスクは、年々恐しい勢いで高まっています。
2024年から本格施行されている空家法改正では、管理が不十分な空き家を「管理不全空き家」として指定できるようになりました。これに指定され、自治体からの勧告を受けると、これまで受けていた固定資産税の優遇措置(住宅用地の特例)が解除されます。結果として、翌年からの土地の固定資産税が最大で6倍程度に跳ね上がる可能性があるのです。
また、放置によって家が傷めば解体費用は上がり、土地の境界トラブルなどが発生すれば売却そのものが困難になります。税制の優遇期間である2027年末までに、そして「管理不全空き家」として目を付けられる前に、まずは信頼できる不動産会社に査定を依頼し、現実的な売却額と税引後の手残り額を把握することから始めてください。それが、親から引き継いだ大切な資産を「負動産」にしない、唯一の正解です。


